読んだ本

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

読みはじめてすぐに感じた、どこかが傾いているような奇妙な違和感は、話が進むにつれて緩やかにその傾きを増していき、最後に「くるん」とひっくり返った。しかも思ってもみない方向ヘ。次々と起こる事件は不可解で気味が悪いが、タネが明かされた後の方がある意味ずっと恐い。

しかし、絵がないことをこれほど残念に思った小説も珍しいな。出てくる登場人物は皆一癖も二癖もありそうな美少年美少女ばかりだし、舞台となった学園も建物から小道具に至るまでとても魅力的に描写されていて、自分の乏しい想像力では漠然としたイメージしか描けないのがすごくもったいない。どこかで漫画化でもしてくれないかしら。

『三月は深き紅の淵を』(ISBN:4062648806)との関係が不明だったので出版順に読んだんだけど、『三月〜』がこの虚構世界を成立させるための仕掛け部分を繋いだオムニバスなのに対して、こっちは独立した一つのストーリー。これから始まる水野理瀬の物語の導入部分ということで良いのかな。