最近読んだ本の感想

かりそめエマノン

かりそめエマノン

文字通り、たった一人の人を守るためだけに生まれてきた男の物語。しかもその相手が実の妹であり、母でもあるという、このシリーズ独特の設定も加わって、比類ないほどピュアな物語になっている。最後は異星人侵蝕ものの様相もあって、SF的にもサービス満点。

今回エマノンは実際にはほとんど表に出てこないけど、守られる立場にあったためか、これまでと比べて割と分かりやすい(どちらかといえばステレオタイプな)ヒロイン的存在だったと思う。やっぱり、エマノンシリーズは基本的にエマノンは脇役で、彼女の周りの人物を主人公とした方がいい。だいたい、エマノンは物事を達観しすぎているから、主人公にするとどうしても話が殺伐としてくるし(笑)。

六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

これはホラーなのか、ミステリーなのか、SFなのか。読んでいる間どっちに行くのか気になっていたが、結局最後まで、どれにもなりそうで、しかしそのどれにもならないまま終わった。でもそんなジャンル分けが無意味に思えるくらい、とにかく面白かった。ラストの放り投げられた感じは確かに気になるところだけど、敢えて全ての謎を説明しなかったことが、この物語に限ってはベストだったような気もする。この物語の一番面白いところは謎解きじゃない。

そもそも、ホラーもミステリーもSFも、根っこは同じなのかなと思ったり。何か合理的に説明できないような不思議なことがあって、それが犯人の行った巧妙なトリックならミステリーだし、霊とか死者とか人間以外の存在のせいならホラーだし、現実とは異なる前提の元で説明される現象ならSFというように。人は根源的にその手の不思議に惹かれるものなのかもしれない。そういう意味では、この作品は実に小説の王道だと思う。

ちなみに、鈴木光司の『リング』シリーズもジャンル分けの難しい作品だけど、あっちはホラーでもあり、SFでもあるという点で対照的。最後はきっちり全ての謎が明かされる辺りも含めて、比較してみると面白いかも。