読んだ本

白貌の伝道師

軽妙なライトノベルも学術的な専門書もどちらも等しく好きだけど、ここのところ読む本の傾向が偏っていて、そろそろ飽きてきたところで全く別系統の本が読みたくなった。で、本棚を見ると意外に選択肢が少ないことに気づいてしまった。順番からいったら、読みかけの「10月はたそがれの国」(ISBN:4488612024)か、ずいぶん前に買ったきり長いこと放置してある「ICO」(ISBN:4062124416)なんだが、ある程度の長編が読みたかったので短編集である「10月〜」は却下。「ICO」は、この前600ページもある恩田陸の「黒と茶の幻想」(ISBN:4062110970)を読んだばかりだったので、女性作家はしばらくは読みたい気分じゃない。ということで、ふと目に入ったこの本を選んだ。
正直ハイファンタジー系はそれほど好きなジャンルではないので、楽しめるかどうかやや疑問だったが、これが読んでみれば大満足だった。内容は、もう情け容赦なく悪辣非道で、これだけ徹底していればいっそ清々しさすら覚える。主人公であるラゼィルは、混乱と殺戮を崇める宗教の敬虔な信徒であり、紛れもなくこれはその神聖にして崇高な教義の飽くなき伝道の物語である。…と、思わず格調高くなってしまうぐらい*1、文章がいちいち漢文めいた壮麗な単語で埋め尽くされており、無闇にゴージャスな気分を味わうことができる。沙耶の唄からこっち、不足していた虚淵成分を存分に補給した感じ。いやーお腹いっぱい。

*1:もちろん本物はこんなもんじゃない