読んだ本

夜のピクニック

本の雑誌が選ぶ2004年度ベスト10」で一位になったらしいので、予定を繰り上げて今年中にこの本を読むことにした(予定なんてあるのかというツッコミはなしで)。

これぞ小説という感じの一冊。派手な行動も目立つ事件もないけれど、一夜の間に起こった登場人物たちの心情の変化が繊細に描かれている。作者自身の体験からくる歩行祭の様子もリアルで、まるで一緒にこの「夜のピクニック」を経験したような気分を味わえた。こういうリリカルでノスタルジックな物語は本当にうまいよなあ。まさに恩田陸マジック。前述の通り大して絵になる場面があるわけでもないので(全編ひたすら歩くだけだ)、このお話を映画化するのは至難の業かもしれない。小説だからこそ成立したお話だと思った。

ノスタルジーという言葉で思い出すのは梶尾真治だが、梶尾真治のキーワードが「おもいで」なら、恩田陸のキーワードは「記憶」だな。前者がある程度整理されてまとまりを持ったものなのに対して、後者は時間も空間も離れた幾つかのイメージが連想によって結び付けられたものという違いがある。この本を読みながら、ふとそんなことを思ったりした。