ブランコの物理学

ふと「ブランコで1回転できるか?」という疑問が生じたのでちょっと考えてみた。

以下θを鉛直下向き方向から反時計回りにとり、ロープの長さをl、重力加速度をgとする。

通常ブランコも振り子の一種と考えるので、運動方程式は次のような単振動の式で表される。

\ddot{\theta}=-\frac{g}{l}\sin\theta …(1)

ここからθが十分小さいときにsinθ≒θと近似して…というのは大学で物理を習った人にはお馴染みの方法だろう。ところが今の場合θの大きさに制限がないのでこの近似はできない。それどころかπ/2<θ<3π/2で速度が遅い場合には自由落下してしまいこの運動方程式がそもそも成り立たない。

次に落下しないための条件を考えてみる。
ロープの張力をTとすると、法線方向の力のつり合いから
T=\frac{mv^2}{l}+mg\cos\theta …(2)
ここで右辺の第1項は遠心力、第2項は重力に対応する。

このとき、落下しないためにはT≧0でないといけない。

v=l\dot{\theta}なので、(1)式からθを求めて(2)式に代入すれば原理的にはθに関する不等式が得られるはずだが、(1)式を解くことができなかった。そこで別の関係式を考えてみることにした。

ここでエネルギーの保存則から
E=\frac{1}{2}mv^2-mgl\cos\theta
θ=0のとき初速v0で運動を開始したとすると、
E=\frac{1}{2}mv^2-mgl\cos\theta=\frac{1}{2}mv_0^2-mgl …(3)

これを使ってv0と運動の関係を記述してみよう。

(i)振り子運動の条件
v=0のときT≧0
(2)式より、\cos\theta \ge 0
(3)式より、\frac{1}{2}mv_0^2-mgl = -mgl\cos\theta \le 0
v_0 \le \sqrt{2gl}

(ii)回転運動の条件
θ=πのときT≧0
(2)式より、v^2 \ge gl
(3)式より、\frac{1}{2}mv_0^2-mgl=\frac{1}{2}mv^2-mgl\cos\pi \ge \frac{3}{2}mgl
v_0 \ge \sqrt{5gl}

(i) (ii) より、
0 \lt v_0 \le \sqrt{2gl}のとき、振り子運動
\sqrt{2gl} \lt v_0 \lt \sqrt{5gl}のとき、回転運動の後自由落下運動
v_0 \ge \sqrt{5gl}のとき、回転運動
となる。

これを確かめるためにJavaアプレットを作った。(→ソースコード)

PendulumApplet

操作方法は、右端のスライドバーで初速に関するパラメータを指定して赤い玉を掴んで適当な位置で離すか下のStartボタンを押す。Resetボタンは位置をθ=0に戻す。スライドバーの値と速度の関係はv_0 = \sqrt{kgl}。つまり、kを2以下にすると振り子運動になり、5以上にすると回転運動、その間にすると回転運動のあと自由落下運動するようになる。

ちなみに、最初の疑問「ブランコで1回転できるか?」は、初速0からスタートして外力なし(自力で漕ぐだけ)ではほぼ不可能らしい。

付録: 円運動をしている物体にはたらく向心力

質点mの座標(x,y)を半径r、角度θを使って表すと、
x=r\cos\theta   y=r\sin\theta

\dot{x}=\frac{d}{dt}(r\cos\theta)=-r\dot{\theta}\sin\theta   \dot{y}=\frac{d}{dt}(r\sin\theta)=r\dot{\theta}\cos\theta

\ddot{x}=\frac{d^2}{dt^2}(r\cos\theta)=r(-\ddot{\theta}\sin\theta-\dot{\theta}^2\cos\theta)
\ddot{y}=\frac{d^2}{dt^2}(r\sin\theta)=r(\ddot{\theta}\cos\theta-\dot{\theta}^2\sin\theta)

法線方向内向きの加速度をaとすると、

a=-\ddot{x}\cos\theta-\ddot{y}\sin\theta=r\dot{\theta}^2(\sin^2\theta+\cos^2\theta)=r\dot{\theta}^2

したがって向心力F(これと同じ大きさで向きが逆の力が遠心力)は、
F=mr\dot{\theta}^2=\frac{mv^2}{r}